安藤優子さん 特別インタビュー 【第7回】

Z世代までも経験する“男社会の風習”。地方を出ていく女性たち



博士課程を終えた安藤さんはいま、女子大学で教壇に立ち、各地で講演も行って、ジェンダーについて発信を続けている。企業の女性管理職が増えないことや、地方から女性が流出している問題もまた、根本にはイエ中心主義の女性認識があり、そこを変えなければ解決しないと警鐘を鳴らす。

――学生さんたちと接していて、どんなことを感じていますか?

先日、卒業していった女の子が、半ベソかいてわたしのところにやって来たんですよ。「先生の話は先生の時代の話だと思っていましたが、令和の今も続いています」って。

――一体、何があったんでしょう!?

彼女の就職先は地方都市の海運会社。とても保守的な、超男性社会なわけですよ。そのおじさんたちの中に放り込まれたら「ウソだろ!?」と思うことが次々に起きたと。おじさんは、彼女を社外の人に紹介するとき「今度ウチの社に入ったピチピチの新入社員です」って言ったそうです。また別の学生はバイトに行く時に制服の上に上着を着て行った日には「女を捨てた?」って尋ねられたと。「女なんか持ってきてないよ!」って言い返してやりたかったけど、笑って済ませたとかね……。

――胸が痛みます。

彼女たちは「Z世代」と呼ばれて、相手との間に垣根を作らないし、ジェンダーによる差別意識もない。しかも、彼女たちは私のところでしっかり学んだ。それでもひとたび社会に出ると、いまだに、そういう無意識の差別や悪意にさらされるんです。最近だと「アンコンシャスバイアス」という言葉を聞いたことがある人も多いと思います。自覚なき差別は「マイクロアグレッション」とも呼ばれます。そういうおじさんたちの中でどうやって生き残っていくかは、結局、昔もいまも、そんなに変わってないんだなぁって思います。



安藤さんは「日本の女性認識はどこから来たのか?」などのテーマで授業を行っている。


ヒラリー氏の、大統領選の敗北宣言がありますよね? 「ガラスの天井」という言葉で知られるスピーチです。あの姿を見て、世界中の少女たちは考えたと思うんですよ。だから私は、あの敗北宣言を、授業で学生たちに全部見せるんです。


2016年、トランプ氏との大統領選に敗れたヒラリー・クリントン氏。演説では、女性の進出を阻む「ガラスの天井」の最後の1枚を破れなかったことに悔しさをにじませた。それでも「ガラスの天井は最も高く硬いが、いつか誰かが破る」。初の女性大統領を後進に託すメッセージを送った。


学生たちは、ちょっと涙ぐんで聞くんです。それを見ると、彼女たちはそもそも「女性もリーダーになれる」「なっていいんだ」という教育を受けてこなかったんだと感じますね。

――どういうことでしょう?

例えばある学生は、おじいちゃんから「お前は女だから、何やったっていいんだよ」と言われて育ったそうです。この「何やったっていい」っていうのは「女は社会のパワーにはなり得ないんだから、なにをして生きていこうと構わない」という意味ね。

――なるほど……。

最初から社会の一員としての力、パワーを発揮するひとりとして期待されていないということを、すごく感じて育ってきたって言うわけです。例えば社長になるとか、起業するとか、そういう発想も選択肢も与えられてこなかった。しかもその子は、学校でも同じことを感じたと言う。小学校の時、サッカー部に入りたくて、女ひとりでサッカー部に入ったら「女のくせにサッカーやるなんて、男の子と絡みたいだけだ」と、悪口を言われていじめられたと。PTAからまでいろんなこと言われて、心が折れたって言うのね

――それはひどいですね。

小学生の時点で「男の人と同じことをやるといじめられる」っていうのが刷り込まれて、トラウマになったそうです。この経験はすべての女性に当てはまる話ではないと思いますが、少なくとも彼女は「この社会で、何かを担っていく力になるんだ」っていうこととは真逆のことを教えられて育っているんですよ。女性を「個」として認めない、イエ中心主義の女性認識そのものですよ。


――確かにそうですね。

当の私も、そういう視線を受けて育ちました。戦争の取材に行って、日本に帰って来て実家に行くと母親が本当にイヤ~な顔をしている。そして私が使っていた部屋に入ると、ピンクのネグリジェとか置いてあるわけよ。そこに母の思いが透けて見える。母なりの親として娘の“シアワセ”を思う気持ちなんですけど女の子っていうのは本来、こういうモノを着て寝るんだと。そして早く結婚するんだと。あんたみたいな格好で戦場とか行かないんだと。そういう風に育ってきたわけです。私ですら。

――そうだったんですね……。

日本は女性管理職が増えないことが問題視されているけど、そもそもこの国の女性は、リーダーになることを期待されて育っていない。むしろ「女の子なんだから“そこそこ”でいい」「苦労なんかせず、早く結婚すればいい」と言われている。だから、ヒラリー氏の姿に胸を打たれるんだと思います。「ここまで行けるんだ」「やっていいんだ」とね。



厚生労働省が公表した「令和5年度雇用均等基本調査」によると、日本における女性管理職の比率は12.7%。諸外国に比べて極めて低い。政府は「2020年代の可能な限り早期に30%にする」という目標を掲げているが、達成には程遠い。来年4月からは、従業員101人以上の企業に対して、女性管理職比率の公表が義務化される見込みだ


企業でも同じことが起きています。講演に行ったら中小企業の人が「管理職の女性を増やしたくても、すぐにはムリだ」って言うんです。役員に引き上げたくても、当の女性が手を挙げない。どうしたらいいでしょうって。でもそれって、企業の側が、ハナから女性に期待してないんです。そういう研修も採用の仕方もしてきていない。女性はお茶くみして、あとはきっちり事務やってくれればそれでいいっていう期待値でしか人材をとっていない。


近年、企業が多様性に欠けることは、将来の成長やイノベーションへのリスクだと判断されるようになってきた。ある大手メーカーの株主総会では、女性役員の不在が一因で、CEOの再任への賛成率が50.6%という低水準にとどまったことが産業界に衝撃を与えた。一方、海外に目を向けると、EUでは上場企業に一定の比率で女性の取締役を登用することを義務化。国によっては決められた比率を満たすまで取締役の報酬を停止したり、守られなければ罰金を課したり、最終的には上場廃止の可能性さえある。


もしかしたら日本も、そういうペナルティとか、インセンティブとかつけるしかないのかもしれないとも思うよね。それぐらいしないと、ダイバーシティって生まれないんじゃないかと思うほど、本当に意識が低いんですよ。でもその前提にあるのは、やっぱり教育の問題だと思います。これからは、社会全体の意識として、子どものころから「あなたはリーダーになることだってできるんだよ」「どんな仕事だってやっていいんだよ」って伝える教育が必要だと思います。

――そうですね。

それって自己肯定感ですよ。自己肯定感を持つことってすごく大事だけど、簡単なことじゃない。私は自己肯定感は他者との比較から生まれる、だからむしろ自分を丸ごと受け止める自己受容が大切と思っています。その証拠に、世界で活躍する女性たちが、自分が「インポスター症候群」であったことを告白しています。


インポスター症候群は、成功しても、自己肯定感の低さから「これは自分の能力や実力ではなく、運が良かっただけ」「周囲のサポートがあったからにすぎない」などと思い込み、自分の能力や実績を認められない、信じられないという状態を指す。英語で「詐欺師」を示す「imposter」に由来。「自分に能力や実力があるかのように、周囲を欺いている」という感覚に陥ることから、その名がつけられた。


ミシェル・オバマ氏が、これに陥ったことを告白しています。弁護士として成功をおさめたけど、やっぱり自分は「オバマの妻」「夫の陰の存在」という意識があった。そういう自分の発言が非常に影響力を持った時「私は、本当はそんな人間じゃない」と思ってしまった。ミシェルのような優秀な人物でも、そもそもの(他者と比べてしまう)自己肯定感が低いと、インポスター症候群に陥ってしまうんです。

――それは意外です。

背景には、子供時代の教育方針などがあると言われています。「個性よりも同調が求められ、周りと同じように振る舞うように教えられてきた」「女性は女性らしく、家庭的で控え目に、という価値観の中で育った」といったことです。その結果、無意識のうちに。目立たず周囲に溶け込んでおいたほうがよいと刷り込まれている。

――それはまさに、日本型福祉社会ではありませんか?

確かに、周囲に埋没して「そこそこ」やっておけば、安心だし楽かもしれません。しかし、そのように教育されて育った少女が、やがて就職して、リーダーを任されることになったとき、結局は自己受容ができず自己肯定感の低さに縛られてしまうんです。これって、「私なんか」という言葉に象徴されます。だからもう、「私なんか」は封印する。集団に埋没することをよしとしない。個人として自分の足で立つ。「個」を尊重する教育が必要だと思います。


地方では、女性の人口流出も問題になっている。民間有識者でつくる「人口戦略会議」は、20~39歳の女性について、2050年までの間に人口が半数以上になる自治体が、744に上るという推計を発表した。これらの自治体は、最終的に消滅する可能性があるという。


――地方では、女性の管理職を増やすという話以前に、そもそも女性が去っている問題がありますよね?

地方を出ていく女性たちは、まさにイエ中心主義から逃れたいんですよ。地方の意識、根深い社会通念に、がんじがらめにされている。それがイヤだから、見切りをつけて逃げているんです。「早く嫁に行け」とか「○○ちゃんは結婚して、子どもが○人いる」とかね。そういうことを無意識に言ってしまう意識を変えないと、いくらお金の補助をしたり、制度を整えたって、人口減少に歯止めはかからないと思います。

――確かに、うんざりしますよね。

家賃補助などで人をつなぎとめようとしても、そこじゃないんですよ。子どもがいる家庭は、家賃補助をしてもらえれば、いったんはそこに移り住むかもしれません。でも、さらにその子どもたちがそこに住み続けるかっていう話です。


女性たちを縛る社会の認識を払しょくするにはどうしたらいいのか。安藤さんはそのカギを「ジェンダーの問題を女性の問題としてとらえるのではなく、男性にこそ当事者だと思ってほしい」と語る。さらに、長年働いてきたフジテレビで起きた問題についても語った。

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